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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)335号 判決

主文

原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弘重定一の上告理由第二点について。

原判決添付目録(一)、(二)、(三)の土地は、もと訴外宮原作之丞の所有であつたところ、売買を原因として被上告人岡田アキノに所有権移転登記がなされ、さらに、被上告人活田稲穂のため抵当権設定登記がなされたこと、作之丞、アキノ間の売買は、両名が通謀してした虚偽の意思表示であることは、いずれも原審の確定したところである。したがつて、被上告人活田が民法九四条二項の保護をうけるためには、同人において、自分が善意であつたことを主張、立証しなければならないのである(昭和一七年(オ)第五二〇号、同年九月八日大審院第五民事部判決参照)。しかるに、同被上告人は、原審において、前記売買が虚偽表示によることを否認しているだけで、善意の主張をしていないにかかわらず、原審は、活田は右所有権移転行為が通謀虚偽表示であることを知らなかつたのであり、これを知つていたと認むべき証拠はない旨判示し、上告人の請求を排斥したものであつて、原判決は、主張責任のある当事者によつて主張されていない事実につき判断をした違法があるといわなければならない。のみならず、論旨摘録の証拠によれば、同被上告人が善意であつたものとは、いまだにわかに断定しえないものがあるのであつて、原判決はまた、重要な証拠に対する判断を遺脱した結果理由不備の違法をおかしたものというべきである。されば、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項により、本件を原審に差し戻すべく、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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